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分掌変更により支給する役員退職給与
2021/10/02

代表取締役が退任され相談役や顧問となり、実質経営からは離れて引退する際に支給される役員退職金について、今回はまとめてみました。
役員に支払う退職金は、給与と同様、従業員に対する退職金とは明らかな違いがあり、特に同族会社等においては利益調整が可能となってしまうことから、支給にあたっては十分なその損金性について検討されるべきものかと思います。

1.役員退職給与の損金算入

2.役員退職給与の損金算入時期

3.役員の所得(退職所得・雑所得・一時所得)

4.分掌変更により支給する役員退職給与

1.役員退職給与の損金算入

法人税法第34条≪役員給与の損金不算入≫では、役員に対して支給する退職給与で業績連動給与に該当しないものは、次の損金算入が認められる3形態に該当しなくても損金算入が認められる、としています。
(1)定期同額給与
(2)事前確定届出給与
(3)業績連動給与で一定の要件を満たすもの

金額については、同条において不相当に高額な部分の金額は損金算入が認められない、とされているため、その適正額を計算する場合には、功績倍率法を利用するのが一般的かと思います。
≪功績倍率法≫
最終役員報酬月額 × 役員勤続年数 × 功績倍率 = 役員退職金額

中小企業においては、業績連動給与に該当すると損金算入ができなくなるため、「功績倍率」が業績給与にも該当する利益の状況を示す指標などを基礎として算定している場合には、業績連動給与に該当してしまう可能性もあるため注意が必要であると思います。

2.役員退職給与の損金算入時期

法人税基本通達9-2-8≪役員に対する退職給与の損金算入の時期≫において、役員退職給与の損金算入の時期は原則的な債務確定基準である株主総会の決議等によりその額が確定した日の属する事業年度としていますが、損金経理を要件として、支払った日の属する事業年度での損金算入を認めています。

支払った年度で損金算入が認められてはいますが、これは不慮の事故や病気により亡くなった場合に退職金を支給する必要がある場合や、退職金を支給することが確定したものの資金繰り等の都合で支払うことができない場合を想定しているものと思われ、例えば利益調整のための追加支給を認めるものではないと思われますので、資金繰りの都合で分割支給をする場合には、会計上も確定年度に未払計上し、当初からその額が確定していたことを示すことがよいのではないかと思います。

3.役員の所得(退職所得・雑所得・一時所得)

退職金を受け取る個人の所得税については、次のうちのいずれかに当てはまるかと思います。

(1)退職一時金として受け取る場合→退職所得
所得税基本通達において、退職金がいつの年分の所得となるかは、「株主総会で承認された日の属する年」とされています。
実際の受領がいつか、ではなく、資金繰り等の事情で分割支払いとなった場合でも、承認された年の退職所得となります。

※分割払いがされる場合の「退職所得の源泉徴収票」と源泉徴収税額
退職所得の源泉徴収票 : 支払金額、源泉徴収税額は全額分を記載。(未払支払分は内書き(上段)に記載)
源泉徴収は分割支払いの都度、その支払額について源泉徴収し、納付をすることとなる。

(2)退職年金として受け取る場合→雑所得
退職所得として受け取るよりも、総額では所得税額が大きくなるケースが多いと思います。

(3)一度の退職で追加支給を受ける場合→一時所得
一度の退職に対して、追加支給されたものが退職所得として認められるケースは大変稀かと思います。
すでに退職している方に対して給与所得することも適当ではないと思われますので、一時所得として取り扱われることが多いと思います。

4.分掌変更により支給する役員退職給与

法人税基本通達9-2-32≪役員の分掌変更等の場合の退職給与≫では、実際には退職はしていないにもかかわらず、実質的に退職と同様の事情がある場合には、損金算入が認められる場合が規定されています。

実質的に退職したと同様の事情になる可能性が高い例示として、次の3つが挙げられています。
(1)常勤役員が非常勤役員となった場合
(2)取締役が監査役となった場合
(3)給与の額が分掌変更後に激減(おおむね50%以上の減少)した場合

この基本通達は、あくまで例示に過ぎないため、実質的に法人の経営上主要な地位を占めていると認められる場合は損金算入は認められません。

過去の裁判例では、①筆頭株主②取締役会等に出席して決議に参加③従業員に指示④事業活動に広く関与しているなど、総合的に判断して「実質的にその法人の経営上主要な地位を占めている」とされた事例もあるため、通達の趣旨に沿う事情であるかを実務では検討する必要があります。

代表取締役を退任し、相談役に就任する場合、みなし役員(会社の経営に従事するもの)に該当しない場合には、損金算入が認められる可能性が高いと思います。

あとがき

役員退職給与は、実務でもなかなか頻繁に論点として登場するものではないと思います。
そのため、実際に検討する場合には、裁判例などを参考に、法の趣旨を理解したうえで損金性を検証すべきかと思います。